マスカケ線に願いを


 怖い。
 のめりこむのが怖い。
 ユズを好きになって、弱くなってしまうのが、怖い。


「ユズに敬語使うのやめる」

 だから、今はこれだけしかできないけど、それでもいい?
 まだ、私に一歩を踏み出す勇気はない。

 だけど――。

「私に、ユズのことを信じる勇気をちょうだい」

 これが、私に今できる精一杯。


 なんでも器用にできるけど、こうすればうまくいくって、計算するのは上手だけど、私は自分の心に素直になるのが苦手なの。
 なんでもほかのことを器用にこなすと、自分のことが後回しになるの。

 ユズ、そんな私を、頑なな私の心を、もっと揺らして。


「杏奈」

 ぎゅっとユズに抱きしめられて、私はユズをおそるおそる抱き返した。


 ねえ、私のマスカケ線。
 この腕の中の温もりは、やっぱり私を置いていってしまうものなのかな?


「今日は、一緒に寝るか」

 悪戯っぽくユズが言う。

「またいい子いい子してくれるの?」
「いや、今日は抱っこして寝てやる」

 私は笑った。
< 86 / 261 >

この作品をシェア

pagetop