あの頃、テレフォンボックスで
「おいで、トーコさん。」


ケイタは私の腕をつかんで、
テレフォンボックスへと連れて行った。


公園の片隅で
忘れられたように立っている
その場所へ。


暗い公園の中で
明かりのついた
そのボックスだけが光っている。
別の生き物のように。
もの悲しげに。



テレフォンボックスのドアを開けて
私の背中を押す。

あとからケイタが入ってきて、
私のことを抱きしめる。


彼の手が私の両頬をつかんだ。
しっかりと大きな手で
私の頬を覆う。

そして

キス。




ゆっくりと長い

キス。



私の中にケイタのなにかが
ゆっくりと流れてきて
こころの底に溜まっていくような
そんな気がした。



そっと唇を離して
私を抱きしめたまま、ケイタが言った。


「トーコさんが
電話ボックスを見て
これから、
もう泣かなくてもいいように。」



体を離したケイタは
片目の端をあげて
にっこり笑う。



それを見て私は
やっぱり
泣きだしてしまった。
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