あの頃、テレフォンボックスで
私の反応が悪かったからか、
志穂はこう切り出した。


「で、あなたはそのケイタくんとやらのために
佐山さんや未来ちゃんや
あなたの家庭を、どうしようと思ってるの?

壊してもいいくらいの覚悟があるの?」



「私の家庭・・・・・


もう、とっくに壊れてるようなもんよ。

いいえ、壊れるもなにも、

はじめから
なにも築いてなかった。」



「だからって!」

「そう、だからって、
私は今の生活や家族を
捨てたいわけでもなんでもないの。

やっと好きな人に出会えたのよ、
心から
愛してるって言える人に。


だけど、この先のことなんて、
考えられない。


今はケイタといたい。
ケイタが好き。


それって
いけないこと?」


「いけないことなのよ、瞳子。

誰でも大事なものを二つは持てない。


それが、結婚するってことでしょ?」



そのとき、隣のベッドのお母さんが
志穂を呼びに来た。

杏ちゃんが目を覚ましたので
志穂は慌てて病室へと戻って行った。
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