あの頃、テレフォンボックスで
初めて入るケイタの家。


マンションの管理人室から
覗く男性の目。
ケイタが軽く会釈したので、
私も同じようにした。


・・・・なんでもない、なんでもない。


そう心で唱える。
私とケイタが一緒に歩いているからって
管理人はそれだけでは
不思議には思わないはずだ。


8階でエレベーターを降りる。
通路から下を見ると
子どもたちが自転車に乗って遊んでいる。


「トーコさん、どうぞ。」


ケイタに促されて、中に入る。
殺風景な部屋の中は
住んでいる人の気配のない、
無機質な匂いがした。



「なんにもないでしょ?
だいたい、いつも誰もいないし。」


軽く首を横にふって
少し微笑んで下を向いた。


ここにはケイタの寂しい気持ちが
詰まってる。


「ケイタの部屋もこんな感じ?」


「俺の部屋?
俺の部屋は・・・・足の踏み場もないよ。
・・・・・ちょっと見せられないな。
今度来るときは、入れるように
ちゃんと片付けておくから。」


ケイタが焦って言う。


・・・・・今度来るとき・・・・


また、


立ち止まる。







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