あの頃、テレフォンボックスで
家出
何をするときも
初めは、無理だと思う。

無理だ、できない、と。


いつの頃からか、そういう自分になっていた。


無理だ、という私に
ケイタはいつも「大丈夫」と
ひとこと言って笑う。


ケイタの放つ「大丈夫」は
強い力で私の背中を押す。


あるときは、
「トーコさん、できないことを考えるより
できることを並べようよ。
第一、やってみないとわからないし。」


そんな風にも言っていた。


ケイタは若いから・・・・
そう考えてふと立ち止まる。


17才の私に、
あの頃できることが
たくさんあったはずなのに、と。



「観たい映画があるから
俺の家で一緒に観よう。
トーコさんも好きそうなやつだよ。」


と誘われたとき、
いつもなら「無理よ」と断ったはずだった。



でも、もうその頃の私は
ケイタがいるから大丈夫だと思っていた。


そしてケイタと一緒にいられるのなら。







< 148 / 201 >

この作品をシェア

pagetop