あの頃、テレフォンボックスで
「トーコさぁん」


私を呼ぶのは・・・貝塚さんだ。

「何度も呼んでたんですよ。こんなところに座って
何してるんですか?」

「あ、映画の時間までまだあるから、
ちょっと、休憩。」

「もう時間ないですよ。行きましょ。」


貝塚さんに促されて、視聴覚室へ急ぐ。
校内の懐かしい空気に・・・
いろんなことを思い出しちゃったわ。


受付、と書かれた机の前に
ケイタはいた。


「遅いよ、貝塚~俺のコーヒー牛乳は?」

「はい、ここよ。長井くんのパンはなかった。
かわりにこれ。」


「こ、んにちは。」


貝塚さんの陰から顔をだす。


「あれ?トーコさん?
来てくれたんだ。でも、遅いよ、今始まったとこだよ。
早く、来て。」


ケイタが私の腕をつかんで
教室の中に連れていく。


ケイタ・・・・・
だめだよ、
腕つかんじゃ。

そう思うけど、離して・・・っていうほうが
なんだか不自然で、
ケイタに連れられて暗幕をひいた
暗い室内に入っていった。


一番うしろの席に私を座らせて
「一緒に観たいけど、他に仕事あるから。
ゆっくり観てね。みんな前の方に座ってるから
泣いても大丈夫。」


そう言って、
私の肩に触れて
出て行った。

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