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「気づかれて、自分が傷つくのも……」

 気づけば私は、好きな人の前でも、普通を装う術を覚えていた。
 友達と好きな人の話をしているときや、遠くから眺めているとき、その人のことを考えているときは、心が高鳴って、心が温まるのに、本人と言葉を交わすとき、私の心は冷静になる。
 そのせいで、好きな人には友達としか見てもらえなかったのかもしれない。
 ひゅかが、空になったジュースを机に置いた。

「人を好きになることは、悪いことじゃないよ、みあ」
「…………」
「あたしの目から見ても、王子はみあのこと気にしてると思うよ」

 実は、私もそう思っていた。
 陣君はほぼ毎日私に話しかけてくる。
 私を見かければ、いつも私の隣にやってくる。
 毎日、メールでやり取りもしている。
 全てが他愛もない内容だったけど、不思議には思っていた。

「だって、王子、他の女の子とは話してるところ見ないもん」
「でも、それだけで私が特別っていうわけでもないでしょ?」

 だから、本当は期待したくない。
 だけど、矛盾して肥大する恋心。

「そんな奥手でどうすんのー」
「……恋愛は、うまくいったためしがないから」

 さっと、頭をよぎったのは、あいつの顔。

「私は、友達がいい」


 隣にいてくれるなら。
 他愛もない会話でも交わせるなら。
 友達でいられるだけで、いい。

 でもね、ひゅか。
 本当は、特別になりたいの。
 でも、拒まれるのが恐い。
 あいつみたいに、繋がりが突然消えてしまうのが、恐い。
 また私が勘違いをして、のめり込むのが、恐いの。

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