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「馬鹿。そんな泣きそうな顔しないで」
ひゅかが勝気に笑ったけど、ひゅかのほうが泣きそうに見えた。
「今日で、最後だから」
私は震えていた。
今日で、陣の姿を目にするのは最後。
今日を境に、もう二度と彼に会うことはないだろう。
「みあ」
「…………」
大好きな声が、私の名前を呼ぶ。
「ひゅかも、卒業おめでと」
「王子もね」
「陣、卒業おめでとう」
スーツ姿の彼は、出合ったときと同じように見えた。
違うのは、灰色の瞳に私が映って、優しく微笑みかけてくれること。
だけど、これも今日が最後。
私は、そっと陣の手を握った。
「?」
陣は不思議そうな顔をしたけど、拒みはしなかった。
今日で、最後。
私はもう、決めたから。
後悔なんて、しない。
怖いけど、いっぱい泣くと思うけど、もう立ち止まらない。
過去にとらわれるのは、もうたくさんだ。
私は、一歩前に進むんだ。
「さて、式場にむかおうか」
私達は、卒業式に挑んだ。
震えるくらいの緊張と、張り裂けそうな心に、私は倒れそうになった。
もちろん、お偉いさんだかなんだかの話は全く耳に入ってこない。