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 初めての受講の日、私の隣に座った女の子が、シャーペンを落とした。

「あ」
「はい」

 それを受け止めて、渡してあげる。

「ありがとう。あたし、久島由華(ひさじまゆか)。貴女は?」

 そう名乗った子は、長い髪の毛を巻いている、綺麗と可愛いの間の女の子だった。

「私は、佐川みあ。よろしく」
「この学科、女の子が少なくて、緊張してたの。これからよろしくね。みあ、ってどんな字書くの? 変わった名前だね」
「みあはひらがなだよ」

 久島さんは大きなぱっちりのくりくりの瞳を、きらきら輝かせた。

「いいなぁ、あんまりありふれてない名前で。あたしなんか、由華って凄いありきたりな名前だからさ。でも、本当に良かった。知り合いもいなくて心細かったの。あたしのことは、ひゅかって呼んでね」
「ひゅか?変わったあだ名ね。私もみあでいいよ」
「変わってた方が、良いじゃん」

 ひゅかはそう言って、笑った。

 私達はいろいろお互いのことを話した。
 二、三教科が、私と同じ教授の授業だとのこと。
 私も、会話できる人を見つけられて安心した。
 ひゅかはさばさばしてて、付き合いやすい人だった。


「みあ~、教授の言ってること、意味わかる?」
「ううん、わかんない」

 プログラムって、かっこいいし、詳しく勉強したいと思って、この学科に決めたけど、かなり、意味がわからなかった。
 二ヶ月経っても、このざまだ。

 ひゅかと二人で、しゃべっていると、ふとひゅかが、

「あれ? 王子だ」
「王子?」

 ひゅかの言葉が唐突過ぎて、私は思わず聞き返した。
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