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 思い出になりかけていたのに。
 前に進もうと思っていたのに。

 頑張れ、みあ。
 もう、私は昔の私じゃない。
 そうでしょう。
 みあ、頑張れ。


 私は震える声で、おずおずと頭を下げて、

「失礼しました。佐川みあです。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

 混乱する頭で、必死に考える。
 動揺から、身体がふらつく。

「佐川ちゃんっ?」

 木戸さんが私の身体を支えてくれた。

「大丈夫ですか、佐川さん?」
「みあっち、大丈夫?」
「す、すみません……」
「みあ……っ」
「っ!」

 陣の声を聞いた瞬間、身体の中を何かが走りぬけたように思えた。
 私は泣きそうな顔で、陣を見た。
 陣は、もどかしげに私を見ていた。
 だけど、私はすぐに顔をそらした。

「木戸さん、ありがとうございます。もう、大丈夫です」
「佐川ちゃん……」

 木戸さんが心配そうに私を見ている。
 小沢さんは、陣の様子に気づいたようだ。

「佐川さん、氷田君と、お知り合いなんですか?」
「あ……」
「はい」

 陣の言葉を遮って、私は答えた。

「同じ大学の、卒業生です」

 私と陣は、それだけの関係。
 だけど本当は、それ以上の関係。
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