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「すみませんでした。会議室に案内させてください。こちらです」

 先導する私を、木戸さんは不安そうに見ていた。
 誰でも気づくだろう。
 私達が、ただの同じ大学の、卒業生などではないということくらいには。
 だけど、誰もが、何も言わなかった。
 乗ったエレベーターの中で、小沢さんと課長、そして木戸さんが話をする。
 私はボタンの前で、沈黙していた。
 背後に陣の視線を感じても、私はそれを無視した。


 私は思い知らされた。
 陣と過ごした四年間が、楽しすぎて、大切すぎて、まだ思い出になっていないことを。
 無理やり押し込めた感情が、そのままで私の中にあったことを。
 嫌いになって陣の前から姿を消したわけじゃないから。
 私は、陣が大好きで、だけどどうにもできなくて苦しかったから、もどかしかったから。
 間違いを犯し続けてしまう自分を危惧して、別れたんだ。
 木戸さんに対する憧れが、恋になっていたらここまで苦しくはなかったはずだ。
 だけど私はまだ、陣を忘れきれていない。
 まだ、心の奥底で、私は陣が好きなんだ……。


 打ち合わせは、双方の問題点の洗い出し、解決法を模索した。
 陣の視線を感じながらも、私はなんとか仕事をした。

「それじゃあ、今の時点で話し合えることは、これくらいでしょうか」

 小沢さんの言葉で、打ち合わせが終わった頃には、六時が過ぎていた。

「私、資料まとめておきます」

 一刻も早く、陣の前から姿を消したくて、私は立ち上がろうとした。

「みあっち」

 私は課長を見た。課長は真剣な表情で私を見た後、にこりと笑って、

「今日はもう、あがって良いわよ」
「……でも」

 陣が私を見ていた。
 彼の視線が、痛い。
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