急性大好き症候群
あたしは起き上がって出かける準備をした。


家にいたら病むだけだ。


街に行こう。


着替えて電車で街に向かう。


席に座って携帯をいじる。


これでもまだ二十歳だ。


「ねえねえ太一、この後服買うの手伝ってよ」

「は? 俺が何するって?」

「服、どんなものが似合うか」

「うわ、めんど。一人で行ってこいよ」

「何よ、久々に会えたんだから、太一に一番可愛いって思ってもらえるような服着たいじゃない。こういうときしか二人で選べないんだからさ」

「それより俺は腹減った。ファミレスでいいよな」

「え、ちょっと、私の服も気にしてよ」

「んなもん後でいいじゃん。結局俺はどんな麻尋でも好きなんだからさ」

「ちょ…………何恥ずかしいこと、堂々と言ってんのよ!」

「本当のことだから、恥ずかしいなんて思わないけど」

「太一のばかあ……」


あたしは思わず顔を上げていた。始めは普通のカップルだと思っていたけど…………。


あたしの目の前のカップルだった。お互いを見ているから、あたしには気付いていない。


女の子は顔を真っ赤にさせて、男の方はそんな女の子の頬を笑いながら指でつついている。


なんて微笑ましいカップル像。


電車が減速する。あたしは俯いて席を立つ。二人があたしに気づくことはない。


扉が開いて電車から降りる。ホームの階段を駆け上がる。


ここがあたしの終着点。


本当は始めからわかっていた。


そして、ここで本当にさようなら。


「太一…………」


あたしの声はホームのアナウンスで掻き消された。







END.


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