急性大好き症候群
「……悪いかよ」

「全然。むしろ一番しっくりきた感じ?」

「私も。空手やってる太一くん……超かっこいい~」


美紗が妄想の世界に入ったらしく、目が上を向いて頬が紅潮している。


「すごいね。強いの?」

「県で優勝。全国行き決めた」

「あっさりすごいこと喋んなよ……」


うん。空手やってる太一くん絶対かっこいいだろうな。


「でも、うちの中学の空手部って、うちらの代で廃部寸前じゃなかった?」

「そうそう。活動してるとこ、一回も見たことなかったけど」

「俺たちの代が十人くらい入ったんだよ。そのまま一気に加速」

「なるほど。太一くんが部長か」

「まあな」


うん。納得。


「裕也~、飲み物買ってこうよ~」

「んなこと言って、まーた俺に買わせる気だろ」

「あは。バレたあ~?」

「いいよ。買ってやる」

「やった!」


ざわめきの中なのに、いきなりそんな会話が、あたしの耳に入ってきた。


裕也?


声のする方へ振り向く。


さっきとは別の意味で、心臓が跳ねた。



< 31 / 198 >

この作品をシェア

pagetop