急性大好き症候群
「で、太一は姉ちゃんが連れてきたの?」

「うん」

「いつの間にどういう関係になったの、二人は」

「家庭教師になってもらってる」

「マジで!? 太一、姉ちゃんより有能な奴なんていくらでもいるぞ」

「失礼だな、あんた」

「俺もそう思うけど、数学だけだから。悪くないよ、お前の姉ちゃん」


おい、太一もところどころ失礼だぞ。


「まあ、数学だけが取り柄みたいなもんだからなあ」

「弘樹、そろそろ殴るよ」

「うわっ、暴力反対」

「喧嘩するくせに」

「俺らは平和主義者なの。自己防衛です」

「じゃあ俺、そろそろ帰るわ」


あたしの手から参考書を抜き取って、太一は「またな」とあたし達姉弟に手を振る。


「弘樹」

「ん?」


弘樹の耳に口を寄せて太一が囁く。


「お前と姉ちゃん、顔そっくりだな」


にやりと笑って、太一は背を向けて歩き出す。


おい、太一、駄々漏れだから。小声でも聞こえたから。


< 84 / 198 >

この作品をシェア

pagetop