絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「それにしてもだいぶ晴れてますねー、昼から雨だって言ってたけど、天気よかったから、傘持ってこなかったです」
「夕方くらい、降るんじゃないですかね。風が少ないから。流れが遅くなったんでしょう」
「詳しいですね!」
 普段天気など全く気にせず生活している香月にとって、その博学ともいえるような知識に、心がときめいてしまう。
「……」
「え、いや、あの、深い意味はないんですけど……」
「…」
 風間は、どちらかと言えば、香月の後ろを歩いてくれている。本当に護衛のようだ。
 そんでもって、午前10時10分、開園後10分に無事入園。人は既に100人以上入園したと思われる。
 香月が入園するのにお金はいらない。もちろん巽が誰かから頂いたというパスポートがあるからである。
 これで園内の乗り物は全て乗り放題だ。
「うわあ、あったかいし、気持ちいいですね」
 3月半ばであったが本日はタイミングよく気温が高く、厚手のジャケットでは汗ばむほどだった。
「そうですね」
 って、スーツ着でにこりともせず、すごく説得力ないんですけど。
「何から乗りますー?」
 受付でもらったパンフレットを広げて観光旅行者のよう。
「……想像以上に乗り物が多いですね」
 香月に見せつけられたパンフレットに、風間は目を落として言った。
「3年前からだと増えてますよ、きっと。さて、じゃあこっちから乗ろっか。ジェットコースターとか平気ですか?」
「……いえ私は……」
「よしじゃあ、奥から乗りましょう。けど待つ時間もったいないから、ファストパス買いましょうか」
 香月は、一緒に乗らないと拒否する風間を置いて、先に歩き始める。ファストパスというのは、乗り物の待ち時間を短縮するための有料券であり、枚数によっては数千円ものもあるが時間を金で買うにはもってこいの商品だった。
「風間さん、デートでここに来たことないんですか?」
「……ないこともないですが」
 やはりダークスーツはこの人ごみの中でも目立っている。よく見れば革靴だし、足が痛くなるに違いない。
「あの、足、痛くありません? もし、窮屈なら、そのスーツ預けて、ティシャツ買ったらどうですか? ミッキーが嫌ならスティッチもあるし」
 香月は、無表情で提案したふりをしていたが、内心は大受けだった。
「いえ、私はこれで……」
「まあ、いつもその服かなら慣れてますよね」
 香月は、スティッチのティシャツを着たメガネの風間を想像して、一人歩きながら笑った。
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