絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「体目当てでそこまでするとは思えねーからそれは違うんだろうけど、何かがいいと思ってるからそこに置いてるんだと思うけど?」
「……会員証貸して? 私、今のその世界がどういうところなのか見てみたい。自分に合わない世界がどういうところなのか、見て諦めたい」
「……」
 夕貴は目を逸らして考えてくれている、と思ったが、数秒してトランシーバーに話しかけ、こちらの話題ではない話題に気をとられていたのだと知る。
「一回でいいから……」
「言い出したらきかねーもんな」
「ね!?」
 夕貴はまずじっと見てから口を開いた。
「先に言っとく。そもそも俺はあんまり賛成じゃない。お前には合わないと思うから」
「……それを確認しに行くの」
 あからさまに大きな溜息をつきながら、目を擦り、胸ポケットに手を入れた。
「一回だけだぞ。すぐ返せ」
「うんうん。いつでも行けるの?」
「年中無休」
 言いながら黒い財布から取り出してくれたのは、クレジットカードのような、白い会員証だった。
「ありがとう! 大切に使うから!」
「誰かに話かけられても適当に逃げろよ。話し込むと長いし、ボロが出る」
「やっぱみんなお金持ちなんだよね……」
「お前よりはな」
 給料20数万円で生き延びている下っ端の庶民ではなく、みんな、年収何千万もあるお偉い人達ばかり……。もぐりで来ている人なんて、香月を含め、0.1パーセントに満たないはず。
 もし話しかけられたらどうしようという不安はあったが、それなりにランニングマシーンでもこなして一時間くらいで帰ろうと決めた。その前に、服がいる。いつものジーパンではまさか行けないし、ジャージもろくなのがないし。
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