絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「そんなのとっくに別れてるよ!」
「そのくせ……附和なんぞにちょっかいだされたり」
「あれは……騙されたんだよ! 騙す方が悪い。附和さんが……、あなたには他に恋人がいるって。先週末見たって。」
「お前が俺を信用してないようなことを言ったから、そこにつけ込んだだけだろう。それに、騙される方も悪い。何故すぐに電話しなかった? 俺に」
 巽は少し眉間に皺を寄せた。
「電話しようと思ったら、しなくてもいいって言うから……」
「赤の他人を信用するにもほどがある」
「……ごめん」
 それ以外に言葉は出ない。香月はようやくソファに座る巽の前まで移動した。
「他に、何をされた?」
「え」
「何もされてないか? 手も握らなかった?」
「……手首……つかまれた……」
 香月は、バツが悪そうに、俯いて答えた。
「それで?」
「頬に……キス……でも、あの人酔ってたんだよ。なんかお酒弱いみたいで……ビール2杯くらいしか飲んでないのに、すごく酔ってた!」
「フリだよ」
 巽は呆れた顔でまた一口飲む。
「けど、多分もう忘れてるよ。少しは飲んでたし」
「お前は覚えているだろう?」
 しばし目が合う。
「……だって……」
「あんまりフラフラするな」
 グラスを置いて、溜息をつかれた。
「させないで!」
 叱られるのが辛くてつい大声で叫んでしまう。
「……つかまれた手は左か?」
 それに対して巽は、冷静に、話を切り返した。
「う、ん……」
 言いながら、左手首を握ってくる巽の意思は知れない。
「うわっ!」
 思い切りぐいと引かれて、その身体の上に落ちた。
「それから?」
「えっ?」
 左手首を掴まれたまま、その厚い胸板に顔は沈む。
「それだけでは済まんだろう。それから、キスか? 舌を入れられ、吸われて感じたか?」
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