絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「今日はお休みですか?」
「はいそうです」
「へー、お休みとかあるんですね」
「ボスが休みのときは私も休みです」
 ということは、今日休みなんだ……、なのに、連絡はない。
「ねえ、暇だったらお茶でもしません?」
 風間は断らない。自信があった。
「ええ、別に構いませんが……」
「が?」
「途中で電話がかかってくるかもしれません」
「別にいいですよ、その先においしいとこがあるんです、そこ行きましょう」
「はい」
 風間は優しく笑って着いて来ようとしてくれる。
「あ、本は買わないんですか?」
「ええ。暇つぶしに寄っただけですから」
 風間も暇であったことが分かり、安心した。
「よかった、なんか一人で行くのも寂しいなと思ってたところなんですよ」
「私なんかでよければ」
 目がいつもと違ってだいぶ優しい。ラフな服装だからだろうかとも考えたが、やはり巽がいないせいだと、思い直す。
 2人はなんとなく談笑しながら歩道を歩き、目当てのカフェに入った。
 窓際の席に対面して座り、まじまじと風間を見る。ここに来るまでのほんの10分くらいの時間だが、こんなに長い間どうでもいいことを喋ったのは初めてだった。前回のディズニーランドの効果が、今確実に発揮されている。
 香月は自分が支払うものと決めてパフェを注文、風間はそれに反してホットコーヒーを注文した。
「風間さんって……あの、休みの日はいつもこんな感じなんですか?」
 一番気になるところである。いつもではないが、人質を縛りつけて、監視役になったり、社長である巽の世話をする以外のところは、全くの謎であった。
「そうですね」
「あの、夜遅い仕事だと、家族と時間帯合わないんじやないですか?」
「家族とは逆の生活になるんでこういう休みのときくらい何かしたいんですけど、生憎皆仕事と学校で(笑)、結局本屋なんかに来てしまいます」
「ああ、そうですよね……。子供さんって何歳なんですか?」
「中学です。男の子」
「へええええ、え、おいくつですか?」
「息子ですか?」
「いえ、風間さんです」
 ちょうどこのタイミングで注文した品が2品同時に運ばれた。一旦間を置いて、
「私は33です」
 今度はさばをよまずにちゃんと答えてくれる。どうやら、勤務中とプライベートではかなりの差があるようだ。
「え……ということは、若い時のお子さんだったんですね」
「ええ(笑)、それなりに苦労しましたよ」
 そういわれると、風間がお父さん以外の何者でもなくなる。
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