絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 2人は一旦目の前の食事に口を落とし、間をおいてから、香月は真剣に話を切り出した。
「あの……。巽さんって……結婚すると思いますか? 将来的に」
「……。どうでしょう」
 風間はコーヒーを見るふりをして、言葉を濁した気がした。
「今まで、浮いた話とか聞いたことあります?」
「私の口からは(笑)。ボスは聞いても答えてくれませんか?」
「うーん……なんかいつもはぐらかされてる気がします。いつも」
「(笑)、でも、香月さんと知り合ってから、随分変わられましたよ、私の休みも少し増えました」
「えっ、そうなんですか!?」
「ええ(笑)、社長が休みのときはたいてい私も休みになりますから」
「ああ……風間さんのためにもデートしなくちゃですね」
「いえいえ(笑)」
「旅行でも行こうかな……そしたら、風間さんも家族旅行、行けますよね?」
 自然の流れで答えたつもりだが、風間はかなり驚いたようであった。
「え、いえ、私のことはお気になさらずに」
「いや……せっかくだし……。旅行行こうって誘ってみます。行かないって言うかもしれないけど」
「ああ……今はちょっと忙しいから……」
 風間はメガネの奥の綺麗な目を逸らした。
「どんな仕事が忙しいんですか?」
「どんな仕事……。来週から香港にも行かないといけませんし」
「香港……」
 そんな話、聞いてない。
「……、あの、巽さんって、私のことどう思ってるんですかね……」
 あまりにも、本音が出てしまったので、
「まあ、若いとは思ってくれてるかな」
と、笑って自分で答える。
「大切に思っていらっしゃると思いますよ」
 落ち着いた声で、まっすぐこちらを見て答える風間に、香月は表情を崩した。
「今までと、違いますか?」
「比べるようなことをしなくても、香月さんのことを、大事に考えていることだけは、間違いないと思います」
 静かに、息を吐く。
「……なんだか……。あの、この前の……。知ってるかもしれませんけど、サクラマンションに女性がいるでしょ? その人のことで揉めたんですよね……」
「いえ、私は何も……サクラマンションのことは、社長から聞いたんですか?」
「いえ。それが……、私のマンションに手紙が送られてきて、私宛に。その中にその、マンションの写真が入ってたから、見に行って話したんです。
 愛人じゃないのかな……愛人っていうのは、変か……。浮気相手?」
 風間は、違うことを考えていたようだが、ハッとすぐに視線を戻し、
「仕事関係の方です。社長もそうおっしゃられたでしょう?」
< 186 / 318 >

この作品をシェア

pagetop