絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「……」
 返事が一瞬遅れてしまう。
「馬鹿な考えはもうよせ……、お前に……」
「好きなら一緒にいて」
 それでいいんだと、強く、自分に言い聞かせるように放つ。
「好きなら、一緒に……。もう、それだけでいいから……、会わないとか、言わないで……」
 ゆっくり、巽のスーツに顔をつけた。タバコの匂いがしたかもしれない。体臭の香りがしたかもしれない。
 だけどもう、目の前の巽の腕を離さないように力を込めることで、それだけで精一杯だった。
「お願い。……お願いだから、捨てないで」
< 199 / 318 >

この作品をシェア

pagetop