絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 返事はない。
「そうか、ハンバーガーかあ……」
 ふと視線を上げると、相手もこちらを見ていたようで、2人で驚いた。
「あ、やっぱり西野さん!」
 香月は周囲を気にともせず、名前を呼ぶとこちらに駆け寄ってきた。それとは別に驚いたのが後ろにいた背の高い目を引く男だった。あれが、彼氏?
「こんにちは、陽太君」
 陽太はちらと香月を見たが、すぐに下を向いた。
「こら陽太、こんにちは」
「いいよ、知らない人とは目合わしちゃいけないもんね」
「知らなくないよ」
「忘れたんだよきっと」
 明らかにデート衣装の香月は、この前自宅で見たときよりも、随分色づいて見える。胸元が開いたワンピースのせいか、それとも、アップに結い上げた髪の毛のせいか。
「彼氏?」
 西野は空かさず聞いた。
 この昼間のさわやかな町には不釣り合いだが、それでも、高級ブティックなら易々と入れそうな、つまり公園で先ほどまで遊んでいた自分とは間逆の出で立ちであり、しかも驚くほどのイケメンだ。いや、そんな安い言葉では語れないような、美青年といった感じだ。その上ホテル経営者……。
彼は、香月の後ろ一メートルのところでずっと停止していた。
「え、うんそう。あの、会社の先輩の西野さん。で、あの、巽さんです」
 香月は簡単に紹介し、2人は形ばかり頭を下げた。
「デート中?」
「うんそう、買い物に出ようと思って。今からランチしようかな。どっかいいとこない?なんか私いつもディアーじゃん? だからたまには違うとこないかなあと思いながらディアーに行ってたんだよねー」
 香月の視線は常に下にある。
「ああ……あ、じゃパッソクラブは? 同じ感じだよ、パスタとかケーキ」
「いいね! 聞いたことあるけど行ったことない。どこ??」
「そこ。そこの路地裏」
「え、どこ?」
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