絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 迫っても、迫っても、追い詰めても、追い詰めても……。
 結局追い詰められているのは、自分。
 彼女は誰だか知らないロンドンに住んだ医師のことが忘れられなくて。
 同じように彼を追い詰めているようで、結局は彼女自身が追い詰められているようであった。
 つまり、こちらを見ようともしない。
 目にも入れない。
 ようやく眼中に入れると、
「いい家族だと思うよ」
のお決まりのセリフ。
 何が気に入らない?
俺のどこがいけない?
 もし、彼女がその肌の色が黒色になれば自分の物になるというのなら、その希望に従っただろう。
 もし、彼女がミュージシャンが嫌だというのなら、その希望に従えただろう。
 だけど彼女はそんなこと言わない。
 言うはずもない。
 だって、最初からこっちを見てないんだから。
 それでもやっぱり忘れられない。
 あの、桜の下で忘れるからと最後に抱きしめたのに、あれから2年も経つのに。彼女は既に新しい道を歩き始めているのに、自分は立ち止まったまま。

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