絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 あぁ、なんか不自然だなと思ったら、それが目当てのランチだったのか。
「香月さん、今度一緒に飲みに行かない?」
「弟とですか?」
「ううん、香月さんだけ」
 ……それ、なんか意味あるのだろうか? 
「別に……構いませんけど……」
「そう? じゃああの、明後日とかどうかな?」
「はい、別にかまいませんけど」
 突然すぎる提案に驚いたが、逆に都合がいい。実は今週は出張で帰らないと麻美に予告されたばかりだ。
「良かった、良かった。一度飲みに行きたいとも思ってたのよねえ」
 しかし、2人きりで飲みに行くのもどうだろうかと、先手を打っておく。
「あの、成瀬さんも誘いましょうか?」
「いいのいいの。誘わなくて。私の知り合いがやってるところがすごく美味しくてね、そこ連れてってあげたいのよ」
 そんなお姉さんぶられても……。
「お店、どこですか?」
「国際ホテルの近くなんだけど。ちょっと入り組んでるから分かりづらいの」
「そうなんですか」
 正美が国際ホテルのマンションの方に住んでいることは黙っておこう。
「良かったー。誘おう、誘おうと思ってたのよ」
 こちらが承諾したことが、それほど嬉しかったのか、今井は笑顔で繰り返した。なんかイメージと違うな、とこちらも笑顔になれる。
「あ、ありがとうございます」
 気が良くなって、にこやかに礼を述べたが。まさか当日、こんなドタキャンに合うとは、思いもよらなかったのである。
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