絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「えー、そうなのぉ……、やっぱり香月さんに似てるの? 顔」
「似てるって言われたことないです。母親似なんです、兄は。私は父親」
 その通りなのだから、仕方ない。
「えー、じゃあ、女顔?」
「ってこともないけど……、けど、兄はなんというか……」
「なんというか??」
「なんというか、うーん、頑固なおじいさんみたいな感じなんですよ。そうそう、それ。剣道してたからかな、そのイメージも強いのかもしれない」
「37歳、剣道、結婚しない主義、ショッピングモール……」
「…………」
 3人は何の話題もなくしたかのように、一旦口を閉ざす。
「だめかなあ……」
「…………」
 聞かずとも、何がどうなのかはっきり分かったので、あえて黙った。
「不釣り合いだよ」
 紺野の突き刺さりそうな言葉に、目を見張ったが、今はそれが助け舟に聞こえる。
「そぉんなことないじゃん、ねえ?」
 今井はこちらに意見を求めるので、
「そうですよ! うちの兄なんか、頑固者でそりゃあもう、全然だめですから」
 何がどう駄目なのかと聞かれたら、微妙だが。
「何がどう駄目なの?」
「…………」
 何がどう駄目なのかと聞かれたら……
「どんな誘いにも乗りそうにない」。
 そう、そこだ。多分きっと、会社の上司が紹介してって言ってるんだけどと、ウキウキで言ったって、「断る」の一言で終わるに決まっている。
 「妹からの紹介なんかに手を出すか」とか、そう、言いそう。
「香月さん困ってるから。もうその辺でやめといたら?」
 紺野が人のみけんの皺と唸り声にちゃんと気づく人で良かった。
「そうよねえー……出会う時はきっと出会うわよね!」
 私に笑顔を向けられても、何の根拠もないことには答えられないが。
「で、彼氏は??」
「えっ?」
 声が裏返りそうになる。
「彼氏も何か経営してるんでしょ?」
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