絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「へー、なあるほど。にしても、鉄棒がないね」
 香月は辺りを見回していると、榊が雨に濡れた髪の毛を払いながら
「あれそうじゃないか?」
 滑り台をはじめとする、何かしらの遊具がごったになってくっっけられているジムの一部に、鉄の棒が横についているのが見える。
「えー、ロンドンはあんなのしかないのかな」
 それには誰も答えず、香月も鉄棒は飽きらめた。
「ね、ブランコ漕いでよ」
 言いながら既にハンモックに乗り込んでいる香月に、
「え、俺!? ……自分でこげんじゃん」
 強く言い返さないのは、自分が言っている矛盾に気付いてる証拠だ。
「でも、狭い、お尻痛い」
「サイズが違うんだよ。ってか、いつまでここにいんだよ。早くホテル戻ろうぜ。大粒になってきた」
 空を見上げる2人をよそに、香月は、
「あっ! あそこにボールあるぅ! 見て! 忘れ物っぽいけど」
 香月は、滑り台の下に隠れていたサッカーボールを目ざとく見つけ、ブランコを降りて走りだした。
「んもう、どうなってんだよ、アイツ……」
 夕貴は仕方なく愚痴りながら続いたが、それに反して榊は黙って続いた。
「これで当て合いしよう」
 10メートルほど離れた場所から香月は榊を狙ったが、完全に外れて遠くに飛んだ。
「夕ちゃんとってきてー!」
「何で俺が……」
 その声は誰にも聞こえなかったが、小走りでボールにたどり着き、振り返るなり、榊を狙って投げた。
「心を込めて投げれば、当たるんだよ」
 ぼーっと前を見ていた榊の背中にボールはばっちり当たり、彼はようやく振り返ったが、もちろん怒らない。
「そうだな」
 しばらく男2人のボールの投げあいは続いた。
「ねー! なんで2人なのー!? 言い出したの私だよー!!」
 その声に夕貴が素早く反応し、
「はい」
と、思い切り投げたボールが顔面で弾けた。
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