絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「え―!?? 無理無理」
 目をさらに丸くさせて、一歩引いて顔の前で手を振ったが、そうリアクションすることは、読めていた。
「いけるよ、若いんだし」
「若いと行けるは関係ないです、却下」
 こちらが先輩だが、見つめてしっかり意見してくる。
「え―。行こう、今日本当はすごく病んでるの、私。佐伯が一緒にディズニーランド行ってくれるってゆんなら元気出る!!」
「またまたあ、突然すぎですよ!」
「どうせならさ、さっきのイケメンも誘おうよ」
 香月はもうすでに見えなくなった頭を、もう一度探そうと彼が歩んだ道の方を見た。
「え、無理無理無理無理もっと無理」
「え、いいじゃん。電話番号知らないの?」
「……知ってますけど……そんなに気に入ったんですか?」
「いい感じじゃない。せっかくだから3人でディズニーランド行こうって言おう」
「……誰が……」
 半分笑いながらも、顔はひきつっている。
「私?」
「……言うだけですよ! バカにされたら嫌だし、勘違いされたらもっと嫌ですよ!」
「いいじゃん、その時はフレば」
「酷い!」
 言いながら佐伯は既に携帯電話をバックから取り出してくれた。
「あの子どっち方面に帰ったのかな?」
「知りませんよ、とりあえずこのビルの前はまずいからどっか行きながらにしましょう」
「なら……電車電車、駅だね」
「中央駅から乗りましょうか」
「うん、駅ビルまで行こう」
 歩く方向が決まったと同時に、佐伯はディスプレイを眺め始めた。
「出るかなあ……私、電話かけたの大学以来ですよ」
 既に携帯は耳に押し当てられている。
「大丈夫、大丈夫♪」
 もちろんその大丈夫には何の根拠もない。
「あ、もしもし、私、佐伯。うんと、今どこ? あ、そう良かった。あのね、今日暇? ……あ、そうなの? じゃあさ、あの、良かったら、なんだけど、さっきのね、私の知り合いの人が言い出したことなんだけど、3人で今からディズニーランド行かない? いやもうすごく突然で私も困ってるところなんだけど、まあよかったら、どうかな? ……え、うんそう、ですよね、東京の、ですよね?」
「え、うん、パスポートは今持ってない」
「東京東京」
「あ、私お金持ってないや(笑)」
「……お金持ってる? いや、自分の分の話だけど。あ、そう……え、うん、わ、意外(笑)、うん、分かった。えっと、駅ビルから。うん、うん、……はい、じゃあね、はーい」
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