境界線
◇
次の日は三人で会社に向かった。
高橋の足はそこまでひどく捻挫したわけではなかったらしい。一晩湿布をはっておいたおかげで自力で難無く歩けるまで回復していた。
リョウスケは昨晩からの不機嫌を引きずり、高橋や私といっさい目を合わせようとしない。
そしてそのまま私たちに何も言わないまま人事部のある五階でエレベーターを降りていった。
「…お礼、ちゃんと言えませんでした」
高橋は肩を落としながら言った。
いつもより弱々しく見える顔はまるで捨てられた子犬のようだ。
そして思い出す。
私は昨晩この子犬を拾ったのだ。
今日から私がこの子犬の飼い主なんだ。
「でも今日から部長のお世話にもなるんですよね…なんとお礼をしていいかわかりません」
待て、高橋。
「あの家売れば、借金の半分は返済できるんです。あれ借家じゃないんで」
ちょっと待ちなさいってば。
「部長が家に置いてくださるおかげでホームレスにならずにすみました!」
………………。