紅梅サドン
金曜日の夜。

僕はいつもの様に冷房の下を陣取ると、ペラペラと冷風で揺れ動くカレンダーを見つめた。

カレンダーが冷房の真下で風で揺れ動く度に、ちらりと九月の文字が目に映る。

後三日で九月がやって来る。


日曜日の夜には、僕はこの部屋で元の通りの一人になる。

元の生活に戻る。

ただそれだけの事。


雪子の荷物は再びあの馬鹿デカいスーツケースに詰め込まれていた。

銀座で初めて雪子に出逢い、その大きさに疑問を抱いた白いスーツケース。

その隣には、施設に戻る次郎のボストンバック。

青色のパジャマが、小さくはみ出している。

眼が覚める様な赤いルノーの寝袋。

この部屋を去っていく三人の荷物が並んだ風景を、僕は冷房の下に座ってただ眺めていた。



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