永遠を繋いで
あれから、茜くんは毎日あたしの家に通っていた。まるで最初からここに住んでいるかのように、茜くんの姿があるのが当たり前になっていた。そしてテスト最終日になった今日も、昼食を食べたばかりの彼は制服姿のままあたしの部屋のベッドで寝息を立てている。
伏せられた長い睫毛を見ながら、ベッドの脇にしゃがみ込む。顔にかかった髪を梳くと、想像よりも柔らかいそれが気持ちいい。

部活が休みなのは確か、この週末までだ。休みが明けたら家に茜くんがいないことが、きっと当たり前に戻る。

「なんか、寂しいなぁ…」

静かな空間にぽつりと呟いた言葉に、返事は返ってこない。茜くんが眠るセミダブルのベッドに、少し離れてあたしも向かい合うように転がった。こんなに近くで顔を見るのは、少しだけ久しぶりだ。

変なことをしたら嫌いになる。そう茜くんに言ったあとから、あの過剰になりつつあったスキンシップが減ったのは気のせいではないと思う。あまり触れなくなったというか、ただの先輩と後輩の時に戻ったような。あたし達の関係はそれで間違いないのだけれど、どこか特別視していただけに違和感を感じるのだ。
しかし気まずさがあるわけではない。相変わらず朝、昼、放課後は一緒に過ごすし、休日もまた然り。むしろ過ごす時間自体は増えていっているのではないかと思う。あたし達の関係は何一つ変わったわけではない。

しかし心に渦巻くこの気持ちは何だろう。
纏わりつくこの感情を、あたしは知っている。触れて欲しい、もっと近付きたい、なんて。だって、これじゃ、まるでーーー

触れたければ、自分から触れればいいのかもしれない。きっと茜くんは拒絶をしないから。それができたらどんなに楽だろう。
このつかず離れずの距離が、もどかしいと思うことがあっても、居心地がいいのは紛れもないあたしの真実。それを自ら壊すような真似など、あたしにはできない。彼の焦がれる相手があたしとは限らない。彼と赤い糸が繋がるとは、限らない。そうなればあたしはまた傷つく。怖いのだ。
勝手だと、怒るかもしれない。軽蔑されるかもしれない。けれどこの距離が変わってしまうのは怖くてたまらない。
結局、あたしは茜くんの優しさに甘えているだけなんだろうと、思う。

彼が好きだという人は誰なのだろう。分からない相手に沸き上がるのは黒い感情。しかし何かを変えようとする勇気も、その権利もあたしにはない。
欲を増す感情は、今のうちに殺さなくては。言葉にしない今なら、まだ間に合う。
願わくば、このままで。
こんな自分本意でずるいあたしが君の傍にいることを、どうか許して。

次第に重くなる瞼を、逆らうことなくゆっくりと閉じる。
ごめんね、声になったのかどうか、自分でも分からないくらいの声で呟いたのを最後に、あたしの意識は薄くなっていった。薄くなる意識の中で感じた温かさは、きっと都合のいい幻だ。


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