シーソーが揺れてる
すると春香は何かを決意したかのようにばさっと傘を閉じた。そして、
「はいこれ」
それを放り投げるように直人に差し出した。
「何?」
「見れば分かるでしょう。傘よ傘」
「これをどうしろと?」
直人がそう尋ねた時、バスの輪郭は半分ぐらい見えるようになっていた。
「これ貸すから差し手帰りな。私ならバス降りてからはそんな歩かないから」
春香が早口で言い終えるのと同時にバスは目の前で止まった。
「じゃっ」
春香は一瞬直人に振り返って手を降るとバスの中へと吸い込まれて行った。
「ありがとな」
直人の発した声はバスが走り出す音にかき消されてしまい春香には届かなかった。
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