シーソーが揺れてる
「あんた傘ささなくていいの?」
この瞬間はもちろん、牛丼屋に向かう時も直人は全く傘をさしていなかったのだ。
「おれ傘持ってない」
「はーっ?」
「んなもん荷物になるだけだし、雨が降ったら走りゃいいんだよ。ちょっとやそっとの雨ぐらい気にすんなって」
「ちょっとやそっとって、これでも充分降ってると思うけど?」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
「これからどんどん強くなるらしいわよ。あんた今から歩いて帰るんだよねえ」
「違うよ」
「タクシーでも呼ぶの?」
「いや、走って帰る」
「・・・」
すっかり呆れ切ってしまった春香は言葉を吐く代わりにため息をついた。と、バス停の時刻表に明かりが灯った。どうやらバスが1駅前まで来ているようだ。
ここからその1駅までは歩いてでも5分あれば行ける距離だ。
まもなくバスの輪郭らしき物がちらちらと目に写り始めた。
< 61 / 284 >

この作品をシェア

pagetop