逃げる女
そのまま、しばらく動けなかった。
無言で見つめ合う。



『…キスしちゃ駄目?』



「え?」



言われた言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。

それくらい大志君の目を見つめてて、ボーっとしてたんだと思う。


だから、顔が近づいて来てようやく意味を把握したんだ


言葉よりも先に身体が反応した。
自由だった左手で、大志君の胸元を押し拒否を示していた。



動きがそこで止まった。



鼻と鼻とがくっつきそうな位の距離。唇が重なる寸前。


けれど顔は反らす事が出来ない。


動けない



『…キスしたい。嫌なら嫌って言って?』



私の右腕は大志君に掴まれたままで、左手は大志君の胸元に置いたまま。


嫌と言えばきっと大志君は離れてくれる。


なのに、私の口はその言葉を紡げない。







大志君は何も言わない私の態度を受け入れだと思ったんだろう。


ゆっくりとまた近づいてきて、唇を重ねてきた。


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