キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)

魔女は生卵がお好き

キリは、エメラルドの双眸を大きく瞬いた。


「ええと、新手の詐欺か何か?」


「誰が詐欺だ! 無礼なッ」

美しい顔を怒りに染め、王子と名乗った青年が声を荒げた。


「だって」

キリは、自称『王子様』を眺めて肩をすくめた。

「ここは第五大陸ゴンドワナ。ガルナティス王国っていえば、第二大陸エバーニアにある王国じゃん」

「そのとおりだ」

「お供の人とか護衛団が外にいるの?」

「俺一人だが」

「つまり、空の上の大陸の王子様が、嵐の晩に、お供も連れず、ずぶぬれで、こんな森の奥にたった一人でやってきた……」

あはははは、と少女はあどけない声で楽しそうに笑った。

「あり得ないあり得ない♪
どっかの戦場から逃げてきた落ち武者って言うならわかるけど」

「この女──……下々の者の分際でこの俺に向かって……! これには事情がある」

「だいたい、そんないかにも王子様って見た目の王子様なんているわけないし」

物語によく登場する金髪碧眼でこそないものの、

女性のようにすっきりと整った色白の優しげな顔に、
月の光の色のブロンド、
すみれの花の色素を溶かした水のような、透きとおった瞳。

見目麗しいこの騎士はいかにも王子様然とした外見だった。

「実際の王子様は、たぶんもっとこう、王子様っぽくない人がやってるものなんだよ」

「どんな偏見だ! そんな理由で詐欺呼ばわりか!」

「理由は、最初からあなたがしゃべってるこの言葉」

顔から笑いを消して、少女はそう言った。

「他の大陸の、こんなへんぴな地方の平民の現地語で話す王子様はどこの国にもいないよ?
王族や貴族が使う言語はね、わたしたち庶民の言葉とは違ってて……」

『──なら、これで信じるわけだな』

キリをさえぎり、青年の口がつむぎ出したのは、先刻までとはまったく異質な響きの言語だった。
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