キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「んーんんんむー」

色気のない声を響かせて、口をふさがれた少女の体はくにくにとうねってラグナードの腕から脱出を試みていたが──、

やがて、どうあってもいましめをふりほどけないとあきらめたのか、ぐったりとその全身から力が抜けた。


相手が無抵抗になったのを認めて、ラグナードの手がゆっくりと少女のアンダードレスに伸び──

互いの唇が離れた瞬間、


"ムタレ・アド・ヴェネヌム"


待ちかまえていたかのようにキリの口が動き、あやしげな言葉の羅列をつむぎ出した。


ぎょっとして、
とっさに身を引いたラグナードの背に、少女が腕を回して、


「ふふふー」

鈴を転がすように小さく笑って顔を寄せ、今度はキリのほうが彼の唇を吸った。


やわらかな感触がラグナードの唇を優しく包みこみ、隙間からすべりこんだ舌が彼の舌にからみつく。


深い、深い──

警戒心と理性をとろかす甘いキスに、くらりと彼の視界が揺れた。


しばし男の本能に引きずられるようにして少女の唇を求め、しびれるような口づけに酔いしれて──



──本当に体がしびれた。



腕が体重を支える力を失い、急速に全身が麻痺して、ラグナードはシーツの上に倒れ込む。

「な……なにを──飲ませた……?」

がく然としながらかろうじて横目にとらえた視線の先で、無邪気な魔性の笑みをうかべたキリが彼を見下ろしていた。

「うふふ、ベニヒカリダケの毒」

と、愛らしいバラの花弁のごとき唇が答えた。
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