始末屋 妖幻堂
「廓に登楼するにゃ、嫌でも一人は買わないといけないじゃないか! 旦さん、廓なんぞに上がったら、遊女に惚れられて、えらいことになるよっ! そんなところに、おめおめ旦さんをやれるかいっ!」

 きゃんきゃんと喚く狐姫の肩をぽんぽんと叩き、千之助は彼女を宥めた。

「生憎、俺っちはそんなにもてねぇよ。金を持ってるわけでもねぇしな。それ以前に、俺っちが出張るのは最後の最後だぜ。伯狸楼をぶっ潰すときだ」

 いきり立っていた狐姫が、じっと千之助を見る。

「・・・・・・何でぇ?」

 いきなり狐姫が静かになったので、千之助は訝しげに彼女を見た。
 内心、また何かヤバいことを口走ったかと考える。
 だが狐姫は、がばっと千之助に抱きついた。

「もうっ。旦さん、惚れ直すよ。金なんかなくたって、一緒にいたいって言ったろ? 旦さんの魅力は、そんなこっちゃないんだよぅ」

 冴と同じように、いきなり抱きつかれても、狐姫はよろめくことなく受け止められる。
 元々狐の狐姫だ。
 加えて妖怪であるので、重さなど無きに等しい。

 それに、何と言っても長年慣れ親しんだ身体だ。
 妖怪であることとかを差し引いても、そこが冴との大きな違いなのだ。
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