始末屋 妖幻堂
「白飯に、葱の味噌汁、大根の葉のおひたし。こっちゃ油揚げの焼き物か。お前さん、なかなかやるねぇ。ろくなモンもねぇのに、よくもこんな、それなりのモンを作れるもんだ」

「あたしはいつも、残り物でしたから。食材も、良いところは姐さん方の食事に回ってしまいますし。あるもので料理するのは、得意なんです」

「俺っちが煮炊きしねぇもんだから、元々食材を買うってことが、そうないんだよな。今日は帰りに、ちょいとそれなりのモン買って帰るか」

 小菊が運んだ膳を前に、軽く手を合わせ、千之助は箸を動かし始めた。

「そういや小太は? 昨日は来なかったのかい?」

 しばらくしてから、思い出したように言う千之助に、小菊はこくんと頷いた。
 食事の後で茶を飲みながら、珍しいこともあるもんだ、と、千之助は何気なく店のほうに目をやる。

「多分、あんまり不用意に、ここに足を運ぶと、あたしの居場所がバレると思ってるんじゃないでしょうか」

 あの単純小僧が、そこまで考えるだろうか、と思い、千之助は密かに笑いを噛み殺した。
 しかし、素人の小菊が簡単に思いつく考えだ。
 それぐらいは、普通に誰もが考えつくものなのかもしれない。

「あんたは、買い出しのときを狙って逃げ出したのか? 小太の店に出入りしていたようだな?」

 思った通り、小菊はまた、こくんと頷く。
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