始末屋 妖幻堂
 この数日で、遊女らの怪我はほとんど治った。
 ちょっと酷い火傷を足裏に負った小菫と、元々怪我人だった桔梗も含め、全員ほぼ全快だ。
 いい加減、お暇してもらいたい。

 だが。

「あん旦那さん、つれないねぇ。焼け出されたあちきらに、行くところなんて、あるわけないじゃないか」

「あちきは自分のことなんかわかんなくたって、旦那さんの傍にいられればいいよ。ここに置いておくれ?」

 相変わらず千之助に取り付いて、遊女らは恐ろしいことを言う。

「冗談。行く先も決まらねぇうちに叩き出すようなことはしねぇが、俺っちだって、そんな甲斐性があるわけじゃねぇ。お前さんら全員の面倒なんか、見てられねぇよ」

 にべもなく言う千之助に、遊女らは唇を尖らす。
 全くこの遊女たちは、己の立場をわかっているのか。
 千之助は煙管を吹かしながら、若干苛々しつつ話を進めた。

「ここに置くわけにはいかねぇ。けど出て行くにしろ、今のお前さんらは、てめぇのことも、ろくにわかっちゃいねぇだろ。元々の家に帰ろうにも、それすらわからんだろ」

 きっぱりと言った千之助に、皆顔を見合わせる。

「でも・・・・・・。元の家を覚えてたとしてもさ、廓に売られた娘なんか、帰れるもんじゃないだろ?」

 普通なら、そうかもしれない。
 だがこの遊女たちは、家族に売られたわけではないはずだ。
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