始末屋 妖幻堂
「あんまり、さぼるんじゃねぇよ」

 羊羹にかぶりつく小太に、千之助は声をかける。

「さぼってないよ。今日は、買い物もあるんだ。呶々女姐さん、その綺麗な金平糖、この代金分、包んでくれるかな」

 もぐもぐと口を動かしながら、小太は懐から小銭を取り出した。
 年端もいかない小太の稼ぎなので、微々たるものだ。
 呶々女は金平糖の蓋を開けながら、怪訝な顔をした。

「これぐらいだね。あんたぁ、あんまり菓子ばっかり食うんじゃないよ。太るよ。それにしても、意外なモン買うんだね?」

 呶々女が翳して見せた袋に、小太は、えへへ、と照れ笑いをする。

「お初がさ、ちょっと前に、おいらの着物のほつれを繕ってくれたから、そのお礼なんだ」

 店の入り口で、何となく話を聞いていた千之助は、片眉を上げた。

「ほ。もう次の恋に目覚めたか。ふふ、良いことだぜ。まぁ頑張れや」

 にやりと笑う千之助に、小太はぽりぽりと頬を掻く。
 呶々女もにやりとし、一旦袋に入れた金平糖を戻した。

「そういうことかい。じゃ、ちょいと可愛らしい色を多めにしてやろうかね」

 そう言って、より分けより分け、色つきのものを中心に、袋に詰めていく。

 羊羹を食べ終わり、金平糖を受け取った小太は、千之助と一緒に菓子処を出た。
 戻り橋で、小太は千之助に手を振って、元気良く駆けていく。
 千之助は、しばしその場に留まって、ぼんやりと橋の欄干に腰掛けた。
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