執着王子と聖なる姫

 大人達の一大事

駅までレベッカを送ってカフェに行くつもりだった愛斗は、残念なことに道中で完全に気を抜いていた。

楽しげに笑い合う二人の姿をカフェの中から見付けた聖奈が、ガラス越しに大きな不安を抱いていることなど、全く気付きもしない。

「じゃ、俺行くから。気を付けて帰れ」
「Thank You!また明日デース」
「また明日な」

大きく手を振るレベッカに、愛斗もまた手を振り返す。滅多にそんなことをすることがないものだから、愛斗自身「どうかしてしまったのではないだろうか…」と自分が心配になった。


そんなモヤモヤとした気持ちのままカフェへ入ると、浮かない表情をして窓際の席に座っている聖奈の姿が見えた。

「あ…ヤベ」

思わず小さく吐き捨てた愛斗は、ここで漸く自分達の姿が聖奈に見られていたことに気付いたのだ。

けれど、謝罪の言葉を紡ぐつもりなど毛頭無い愛斗は、何食わぬ顔で聖奈の向かいに座り、皿の上のサンドイッチをちょいっと摘まんだ。

「俺のため?自分のため?」
「もうすぐ来るだろうと思ったんです」
「そっか。お待たせ」

訊かれない以上は、自分からは何も言わない。それが愛斗のスタイルだったし、今後も聖奈に対してそれを崩すつもりはない。けれど、突っかかり易いようにはしてやる。それが愛斗なりの優しさだ。

「何膨れてんだよ。そんなに腹減ってんなら食えば良かったのに」
「違います」
「あっそ。食い意地張ってっから、腹減って機嫌が悪くなってんだと思った」
「違います!」

ぶぅっと膨らませた聖奈の頬を突き、サンドイッチを差し出す。それにかぶり付いた聖奈が、俯きながらモグモグと口を動かす。

「やっぱ腹減ってんじゃねーか」
「ひまふ…」
「うん。食ってから喋れー?」

何回言ったらわかんだよ。と、顔を上げた聖奈に笑いかけると、ごくんとそれを飲み下した聖奈が再び表情を曇らせた。

「何だよ。言いたいことあるなら言え」
「ありません」
「そうかよ。だったらんな顔すんな」

これは言いそうもない。と諦めた愛斗は、店員を呼んでアイスコーヒーを頼み、唸るバイブレーションを止めるために鞄から携帯を取り出した。


―マナのdadyはDEVILだった!
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