執着王子と聖なる姫
講師達にあれやこれやと質問をされ、メーシーが事務所へ戻ったのが14時を過ぎた頃。

それを待ち構えていたのが、この事務所の2トップ。
メーシーからすれば、おバカの2トップである。


「メーシー!どうなってんの!」


あー煩い。と両手で耳を塞ぐメーシーに、恵介が今にも噛み付きそうな勢いで詰め寄る。その後ろには、腕組みをして電子タバコをくわえた晴人が待機していた。

「あれ?また禁煙?」
「おぉ」
「何?セナちゃんが妊娠でもした?」

ゲホゲホと器用に水蒸気を喉に詰まらせて噎せた晴人に、メーシーは「ふぅーん」と意味ありげに笑う。

「何週目?」
「いや、まだ何も言うてへんがな」
「隠さなくていいじゃないか」
「あーもうっ!8週目やって」
「えっ!?セナ妊娠したん!?」
「ちゃうに決まっとるやろ!千彩や!」
「ちーちゃん!?」

聞かされていなかった恵介は、細い目を最大限に見開いてポカンと口を開けた。

もう「ちーちゃん」と呼ばれる年でもないのだけれど、やはり恵介にはいつまでも可愛い「ちーちゃん」で。千彩の見た目が若いだけに、さして違和感は無い。

「この年でパパになるとはね。やるねー、王子」

クスクスと笑うメーシーとは正反対に、二人は浮かない顔だ。

「晴人…諦めようや。もしまたちーちゃんに何かあったら…」
「それは俺も考えた。考えたし、千彩にも言うたんや」

聖奈を産んだ時、千彩は生死の境をさ迷った。晴人を初め皆一度は覚悟を決めたし、神にも、仏にも、女神にも、天使にも、縋れるものには何にだって祈った。

そのお陰かどうかはわからないけれど、千彩は無事に目覚め、小さく生まれた聖奈も高校生になるまで成長した。


「千彩が産む言うて聞かんねや。もー…誰かあいつの頑固を何とかしてくれ!」


頭を抱えて座り込んだ晴人を見下ろしながら、メーシーは改めて記憶を辿った。

千彩が聖奈を妊娠した時は、それはそれは悪阻が酷くて。何ヶ月も入院した挙げ句、産むが産むまでそれから解放されることはなかった。

その時担当した医師の説明によれば、千彩は年齢に身体の成長が追い付いていなかったらしく、身体が妊娠を受け入れられない状態だっだそうだ。


あれから15年と数ヶ月。もしかしたら今なら普通に産めるのでは?と思い、メーシーはポンッと晴人の肩を叩いた。
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