執着王子と聖なる姫

 ピンチはチャンス

あんな両親に育てられた俺達は、どこか歪んで育ってしまったらしい。けれど、両親を責めるつもりはない。寧ろ俺は、両親が、家族が好きだ。

そんなことを思いながら見上げた空は、いつもよりも青かった。

「じゃ、俺は学校行くからな」

不安げに見上げる双眸が、途端にうるうると潤んでゆく。こうしてシャツの袖をギュッと握られるのも毎朝のことだ。

「レイ?」
「No!」
「Layla,don't worry.」

ゴネる妹を宥めるのは、少しばかり骨が折れる。この時ばかりは、母を宥める父の苦労が手に取るようにわかる。まぁ…妹は母とは違い「日本に帰るわよ!すぐ!」などと、家族の人生の進路をいとも簡単に変えるような発言はしたりはしないけれど。

「Mana」
「don't worry.」

毎朝のことなのだけれど、毎朝のことだから目立つと言うもので。

校門の前で他校の男子生徒、しかも茶髪にオッドアイの少しチャラそうな男の腰にしっかりと抱き付く、帰国子女の美少女。ヤバイんじゃなの?あの子。まぁ、そんなところか。この視線の言わんとするところは。

「佐野、入んぞ」

グイッと引き離されよろけた妹を、黒髪に長身のメガネ男子が受け止めた。誰だよ、お前。と、妹を溺愛している兄は嫉妬してまう。

「don't touch!」
「あー、はいはい。日本語話せよ、お前は。毎朝門の前で男とイチャついてんじゃねーよ」
「What's!?マナはbrotherよ!」
「あー、そうかよ。じゃっお兄さん、こいつは俺が引き受けますんでー」
「ああ、よろしく」

名乗りもしないまま、そのメガネ男子は妹の腕をさも当然かのように掴んで行ってしまった。何だか今度は俺がゴネたい気分だ。

が、そうもいかないのが現実。さっさと踵を返し、駅へと逆戻りする。
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