甘い誓いのくちづけを
動揺を隠せないあたしを余所に、文博は腕時計に何度も視線を落として時間を気にしている。


それがいつもの物じゃない事に気付いたのは、その直後の事…。


数日前に会った時には、付き合って初めての文博の誕生日にプレゼントした物を、ちゃんと着けてくれていた。


それなのに…


今は違う物になっている事を知って、そしてそれがこの状況の全てを語っている気がして、返す言葉なんて見付けられなかった。


それでも、簡単に頷く事は出来ない。


エンゲージリングを貰った数週間後から、二人でチャペルやホテルのパンフレットを少しずつ集め、結婚への準備を進めて来た。


文博の仕事の都合で先延ばしになっていたお互いの両親への挨拶も、来週にはやっと行けるはずだったのだから…。


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