甘い誓いのくちづけを
理人さんに少しだけ強引に促されて一先ず車に乗ったものの、すぐに上品なシートを濡らしてしまった事への申し訳なさでいっぱいになった。


「あ、あの、やっぱり降ります……。シートが濡れちゃ……」


「そんな事気にしなくていいから、とりあえず待って」


ドアノブに右手を掛けたあたしの左手が、すかさず大きな手に包まれた。


「でも……」


「相変わらずだね……。気を遣うのはいいと思うけど、瑠花ちゃんの場合は気を遣い過ぎだよ。大体、そんなに濡れてないから大丈夫だよ」


苦笑した理人さんに止められて、戸惑いながらも車内に留まる。


「それに……俺の前だけでは、気を遣わないでいてくれると嬉しいんだけど」


すると、彼は柔らかく微笑んだ。


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