甘い誓いのくちづけを
ほのかなシトラスの香りに包まれた車内はあまりにも静か過ぎて、外の僅かな音を簡単に遮断する。


そんな空間では、あたしの鼓動は理人さんの耳にも届いているのかもしれない。


それでも込み上げて来る嬉しさを隠す事も、高鳴っている胸の内を抑える事も出来ない。


「『嫌なら逃げて』って忠告した俺から逃げなかったんだから、もう覚悟はしてくれてるよね?」


あたしの胸中を探るような瞳が、ゆっくりと近付いて来る。


頭の中を過ぎるのは、キスの予感。


やっと会えた理人さんに、もうこのまま唇を委ねてしまおうかと考え始めたけど…


「……っ!……待っ、待って!」


その邪魔をするかのようにずっと押し込めていた不安が過ぎって、咄嗟に彼の胸元に腕を伸ばした。


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