甘い誓いのくちづけを
涙を隠すように俯いていたあたしの前に、理人さんがグラスをそっと置いた。


いつの間にか店員が運んで来たみたいだけど、それがいつからこのテーブルにあったのかはわからない。


ただ、理人さんがあたしの為に注文してくれた事は、間違いないのだろう。


その証拠に、グラスはあたしのコースターの上に置かれている。


泣いている事を店員に気付かれたかもしれないと考えながら、それをじっと見つめた。


ワインレッドに近い、赤。


その色と、その中で踊る無数の小さな気泡を見れば、さっきまで口にしていたカシスオレンジじゃない事はわかった。


顔を上げたあたしに、理人さんが意味深な笑みを浮かべる。


そして、彼はグラスを持ち、あたしの目の前に差し出した。


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