甘い誓いのくちづけを
箱に沈ませたままのリングを見つめていると、自然と小さなため息が漏れてしまう。


綺麗なはずの、ダイヤモンド。


憧れだったそれが自分(アタシ)には鈍色に見えるのは、きっとこの結婚を決めたのが打算的な理由だったから…。


婚約者の文博(フミヒロ)の事は、ちゃんと好きだと思う。


だけど…


少女漫画やドラマのヒロインが落ちるような、身を焦がす程の恋じゃない。


それでも結婚を決めたのは、文博とならそれなりに上手くやって行ける気がしたから…。


例えば、どれだけたくさんの愛が満ち溢れていても、それだけでは生きてはいけない。


だから…


あたしは心に抱いたままの不安や戸惑いに蓋をして、上場企業でそこそこの肩書を持つ文博との未来を選んだのだ。


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