甘い誓いのくちづけを
「すみません、遅れてしまって……」


「来てくれないかと思ったよ」


椅子に腰を下ろす前に頭を下げると、理人さんが悪戯っぽく笑った。


「ほ、本当にすみません!」


約束の時間に間に合わなかった事はもちろん、昨夜の非礼もお詫びするつもりで謝罪を零したけど…


理人さんは、また優しい笑みを浮かべた。


「嘘だよ。約束は守る主義なんだろ?」


「え?」


確かに、あたしは約束は絶対に破りたくないけど、理人さんがそんな事を知っているなんて嫌な予感がする。


「キールを飲んだ後、瑠花ちゃんが色々と話してくれたよ」


思い出すようにクスクスと笑う彼を前に、目眩(メマイ)を覚える。


どう考えても、昨日のあたし達が素敵な夜を過ごしたとは思えなかった――…。


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