甘い誓いのくちづけを
ふと視界に入った左手の薬指に、もうあのエンゲージリングは無い。


今となっては外した事が正解だと思うし、その気持ちに嘘は無い。


だけど…


それでも、簡単に割り切れる程の安い気持ちじゃなかった。


職場への報告がまだだったから、リングは文博と会う時にしか着けていなかったけど、貰った時は素直に嬉しいと思った。


だからやっぱり、心に溜まっていく切なさにも虚しさにも気付かない振りは出来なくて…


そんな気持ちを表現するように、ごく自然と深いため息が漏れた。


「……やっぱり、寂しい?」


そんなあたしの頭上から降って来たのは、どこか寂しげにも聞こえた声。


ハッとして顔を上げると、眉を寄せて微笑む理人さんがテーブルの前に立っていた。


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