甘い誓いのくちづけを
「……電話、終わったんですか?」


投げ掛けられた質問に答えられなくて、咄嗟に話をすり替えた。


理人さんは小さく頷いた後、光沢のある椅子に腰を下ろしてから口を開いた。


「ごめん。訊くまでもないよね、こんな事……」


婚約を破棄されたのは自分(アタシ)で、もちろん傷付いたのも自分(アタシ)。


だけど…


あたしを見つめる理人さんの方が、何だかずっと傷付いているように見えて仕方なかった。


「ねぇ、瑠花」


そんな時、不意に彼の声で呼ばれた名前。


とても優しい声音に、胸の奥がトクンと音を立てた。


胸元を隠すように手を添えたあたしは、呼び捨てにされた事と真剣な眼差しに戸惑ってしまったせいで、返事すら出来なかった。


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