千尋くん、千尋くん
「本当にいいのか? もう夜も遅いし、なんなら車出すけど」
「ん、大丈夫。ちゃんとあるみん家まで送るから」
「そっか」
靴を履きながらそう言った千尋くんは、あたしの鞄を持ったまま玄関のドアを開けてくれた。
「後は忘れ物、ない?」
「ない……たぶん」
「あるみのたぶんは頼りないね」
「……否定できない」
ちょっと千尋くんにいじわるを言われながらも、開けてくれている玄関から出る。
「し、熾音さん、お邪魔しました」
「うん、またいつでもおいで」
入り口で見送ってくれている彼にもう一度お辞儀をしてから、ドアは閉められた。